「ジェンダー平等が全てのジェンダーのため」になるのはなぜか?【渡辺由佳里×治部れんげ】
『アメリカはいつも夢見ている』新刊記念トークイベント【渡辺由佳里×治部れんげ】②
■日本が「女性が活躍する」社会になるために必要なこと
治部:アメリカで、調査した全200都市のうち20都市ぐらいで若い女性のほうが若い男性よりも稼ぎが多かったという調査結果があります。女性のほうがパワーを持ってきたことで、男性が「本来、自分たちが得られるはずのものを女が持っていった」みたいな剥奪感を持つような現象は、アメリカにもあるんでしょうか。
渡辺:そうですね、アメリカにもあると思います。実際には男女で収入は平等ではなく、例えば同じ医師でも男性のほうが収入は多いのですが、それでも男性の中には「自分の仕事が奪われている」と感じる人もいます。特に「ラストベルト」と言われている、昔、重工業が盛んだった地域が顕著です。
ラストベルトの辺りでは、女性には病院で看護師をするとか、事務職をするといった仕事があるんですけれど、男性の場合は、「男性独自」と言われた工場で働くような仕事がなくなってきています。
それが「プライドが奪われた」という感情になり、ミソジニーや人種差別に繋がったりしているわけですよね。アメリカでよくアジア人女性が襲われるのも、「自分が持つべきものを奪われた」みたいな感情と複雑に絡んでいるのだと思います。
そういうこともあって、私は、これからの日本の経済が心配です。私はバブル時代の東京に住んでいたんですけれど、当時はわりとみんな明るくて、寛容性もあり、他人に嫉妬している人は今みたいに多くはなかったように感じます。
お金がなくなってくると、怒りとか恨みといった気持ちも生まれやすくなります。ですから、日本の経済が悪化すると、いろいろ悪いことが起きてくるのではないかという恐れを感じています。
そして経済を盛り上がらせるためには、女性活用が必須です。女性を活用しないと(女性が同等に働いている国と比べて)国際的な競争力がなくなって当然なのです。
一方、「採用しようとしているのに、トップクラスの管理職に行けるような女性がいない」という声も聞こえます。
それは現時点の日本では仕方がないことでしょう。生まれた時から「女は発言してはいけない」とか、「女らしくしなければいけない」「可愛くいなければいけない」と教育され、それが骨まで染み付いているわけです。それなのに、突然「発言しろ」とか「リーダーシップを取れ」と求められても、いきなり変身はできません。「そうするな」と言われて何十年も生きてきたのですから。
だから根こそぎ、生まれたときからの教育方法から変えないといけないですし、「現時点でこの人はリーダーシップがないみたいだから」と言わずにやらせてしまう。人間って立場を作ってしまうとできるようになってくるものです。だから、まずやってしまうんです。採用するほうも、されるほうも、ミスをしながら学んで成長していけばいいのではないかと。大変だけれども、登用することと育てることの両方を、いろいろな場面で始めないといけないと思っています。
ジェンダーギャップを埋めるのは「日本のため」であって、「女性のため」だと思わないで欲しいです。それをやらないと日本は競争力を回復させられなくて、本当に生き残れなくなりますから。
文:甲斐荘秀生
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